開発事例:ドローンの複雑な移動に対応するためのリアルタイム伝搬環境シミュレータ開発

こんにちはドルフィンシステムの笹生です。

久しぶりの開発事例の記事になります。

これは 2017年の開発事例となります。(こうして事例を書いていて思うのですが、時がたつのは早い、、、もう8年も前なんですね。)

当時ドローン技術の急速な進展とともに、空中を自在に移動する小型無人機の活用が本格化しつつありました。ドローンは、上下左右に自由に移動し、かつ急激な加減速や方向転換を行うため、その通信品質を正確に評価するには、これまでの直線的な移動モデルだけでは不十分です。

ドローン特有の複雑な移動パターンを模擬するためには、二次元(2D)ではなく、三次元(3D)で移動を捉えた伝搬環境の評価が不可欠であり、さらにこれをリアルタイムで実行できる仕組みが求められていました。特に、ドローンの運動に応じてアンテナパターンが動的に変化するため、静的なフェージングモデルでは現実的な環境を十分に再現することができませんでした。

こうした背景を受けて、当時、我々はリアルタイム3D伝搬環境のシミュレーションを可能にするフェージングシミュレータを、FPGAを搭載したソフトウェア無線機「USRP-RIO」上に実装しました。このシステムでは、一定の時間間隔でドローンの移動に合わせてアンテナパターンを加味したリアルタイムの伝搬状況を更新できるように設計し、より現実に即した高精度な通信評価が可能となることを目指し、開発しました。

こんな感じのアプリです。グラフの左が真上から見た状態、中央が真横(Y軸方向)で見た状態、右が2パスの伝搬路の遅延プロファイルです。


技術的課題

3D伝搬環境をリアルタイムで再現するにあたり、当時直面した課題はいくつもありました。

まず、ドローンの移動は単なる直線運動ではなく、三次元空間を自由に移動するため、位置情報に加えて、姿勢角(ピッチ、ロール、ヨー)までリアルタイムに管理する必要がありました。これにより、移動体の運動に応じた正確な伝搬モデルを構築することが求められたのです。

また、ドローンの向きや動きに応じて、アンテナの指向特性(アンテナパターン)が刻々と変化するため、シミュレーション中にアンテナパターンをリアルタイムで更新する仕組みも不可欠でした。従来の固定パターン前提のモデルでは、ドローン通信特有の伝搬変動を十分に再現できないことがわかっていました。

さらに、これらの動きに連動したマルチパスフェージング(複数の反射波による伝搬変動)をリアルタイムに生成しなければなりません。その部分に関しては従来から弊社で持っている FPGA の信号処理 IP Riviera を使用しました。

こうした課題をクリアしてリアルタイム性を確保するために、ドローンの位置情報、姿勢情報などから、フェージングシミュレータのパラメータ更新時間に合わせて、事前に設定値をプリコンパイルして、実時間で設定値を更新していく仕組みを構築しました。


まとめ

ドローンの飛行環境が急速に多様化しつつあった約8年前、三次元的な移動に対応したリアルタイム伝搬環境シミュレータの開発に取り組みました。ドローンの複雑な運動特性に対応するため、位置や姿勢の変化に応じて伝搬パターンやアンテナ指向性をリアルタイムに更新できるシステムを、元々持っていた フェージングシミュレータ Riviera の FPGAを搭載したUSRP-RIO上で実現しました。

現在、ドローン通信はさらに高度化し、群制御、MIMO対応、都市環境下での運用、AI活用など、新たな活用が広がっています。8年前に築いたこのリアルタイム3Dフェージングシミュレータの開発経験をもとに、より高度なシミュレーション技術の探求を続け、進化し続ける無線通信の世界に貢献していきたいと考えています。


0 件のコメント :

コメントを投稿