【無線評価の仮想実験室①】LEO衛星通信の遅延・ドップラー変動を、実験室で評価する

無線評価の仮想実験室|第1回

こんにちは、ドルフィンシステムの笹生です。

今回は、開発中のSDRチャネルエミュレータ「Riviera-NEXT」を使った評価の例として、LEO(低軌道)衛星通信を取り上げます。

この記事は、評価方法をご紹介するための仮想事例です。特定のお客様の導入実績や実測結果を示すものではありません。製品の対応範囲は、機種・構成・開発状況によって異なります。

固定条件では通信できる。でも、衛星が動いたら?

ある研究チームが、LEO衛星通信向けの受信機を開発しているとします。

ケーブルで送受信機を接続し、減衰器を入れた環境では問題なく通信できました。周波数オフセットを与えた試験でも、一定の範囲なら受信できます。

しかし、実際の衛星は移動します。地上局との距離や相対速度が変わるため、伝搬遅延やドップラーシフトも時間とともに変化します。

そこで、次の疑問が出てきました。

  • ドップラーシフトが変化しても、受信機は追従できるか?
  • 途中で同期が外れた場合、再捕捉できるか?
  • 遅延が変化する環境で、通信の再送制御やタイムアウトは適切に動くか?
  • ソフトウェアを修正した効果を、同じ条件で比較できるか?

固定条件での試験に加えて、時間とともに変わる条件で、実際の送受信機を動かす試験が必要になります。

送受信機の間に「変化する伝搬路」を入れる

この評価で想定するのが、次の構成です。

送信機 → Riviera-NEXT → 受信機

図1:送受信機とRiviera-NEXTの接続構成(片方向リンクの概念図)

図1:送受信機とRiviera-NEXTの接続構成(片方向リンクの概念図)。画像をクリックすると拡大できます。

Riviera-NEXTで入力信号に遅延やドップラーなどの変化を与え、受信機へ出力します。実機を接続する際には、入出力レベルに合わせた減衰器なども必要です。

ここで再現したいのは、衛星通信システム全体ではなく、まずは送受信機の間の伝搬条件です。対象とするリンクや試験目的に応じて、与える条件を決めます。

例えば、最初は受信電力を一定にして、ドップラーの変化への追従を調べます。次に遅延を変化させ、最後に必要に応じて減衰やフェージングを組み合わせます。

一度に条件を増やすよりも、要因を分けることで、通信が途切れた原因を調べやすくなります。

仮想の実験:どの条件で追従できなくなるのか

今回の研究チームなら、次のような手順で評価できそうです。

図2:固定条件から修正前後の比較まで、評価の4ステップ

図2:固定条件から修正前後の比較まで、評価の4ステップ。画像をクリックすると拡大できます。

1.固定条件で基準を取る

まず、遅延とドップラーを固定し、受信機の基本動作を確認します。

受信同期の状態、パケット誤り率、スループットなどを記録し、変動条件と比較するための基準にします。

2.ドップラーを時間とともに変える

次に、対象とする衛星通過を想定したドップラーの時系列を与えます。

確認したいのは、オフセットの大きさだけではありません。周波数が変わる速さに、受信機が追従できるかも評価対象です。

同期が外れた時刻と、そのときの設定条件を照らし合わせれば、追従処理を見直す手がかりになります。

3.遅延の変化を加える

ドップラーの評価に続いて、距離の変化に対応する遅延を加えます。

実際の軌道を模した試験では、遅延とドップラーを同じ軌道・幾何条件から求め、整合した条件を使うことが大切です。一方、原因を切り分ける試験では、意図的に片方だけを変える方法もあります。

再送やタイムアウトなど、往復の通信を評価したい場合は、戻り方向も含めた構成と遅延配分を検討します。

4.修正前後を同じ条件で比較する

受信機の追従処理を修正したら、同じ設定の時系列でもう一度評価します。

「通信できたか」だけでなく、同期が外れる条件、再捕捉にかかる時間、通信性能の変化を比較します。設定と受信側の測定結果を対応付けて残すことで、改善を判断しやすくなります。

なお、同じ条件を再設定することと、雑音やフェージングの波形まで完全に一致させることは別です。比較に必要な再現性を、試験ごとに決めておく必要があります。

実際の衛星を使う試験につなげる

実衛星を使った評価は欠かせません。ただ、同じ通過条件を何度も用意するのは簡単ではありません。

実験室で条件を繰り返し与えられれば、実衛星での試験前に、苦手な条件を探したり、修正の効果を確かめたりできます。

Riviera-NEXTでは、このような実機を使う評価に向けて、遅延・ドップラー等を扱うNTN向け構成の開発と検証を進めています。利用できる範囲は、USRPの機種やビルド構成、確認済みの機能によって異なります。

また、Riviera STUDIOでは、衛星や地上局、軌道、リンクといったシナリオから評価条件を扱いやすくする方向で開発を進めています。

目指しているのは、条件を設定して終わりではなく、シナリオ作成から実機での評価、記録、条件を変えた再評価まで進めやすい環境です。

皆さんなら、どの条件を試したいですか?

今回はLEO衛星通信の受信機を例にしましたが、評価対象によって知りたいことは変わります。

受信機の捕捉・追従性能を調べたいのか、通信プロトコルへの遅延の影響を見たいのか。それとも、アプリケーションまで含めて動作を確かめたいのか。

「固定条件では動くけれど、変動条件で確かめたいことがある」という方は、ぜひ評価対象と試したい条件をお聞かせください。Rivieraでどこまで評価できるか、必要な構成も含めて検討できます。

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次回予告:ケーブル直結では通信できるのに――フェージング環境で受信機を試す

 

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